はじめまして、こつぶ夫人です。アタクシの秘密のお部屋へようこそ。
 
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【2009.08.15 Saturday 】 author : スポンサードリンク
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祖母と、ぼそ。
祖母に電話をかける。
母が養女になった為に「祖母」なのだが、
実は母の姉でもある。
俺はこの祖母でもあり叔母でもある女性に、
ひっついて回って育った。



「お誕生日おめでとう〜!」
「まあまあ、ありがとね。」

祖母がぼそぼそ話す。

「いくつになっただ?」
「アンタ、それがもう80だがね。」
「うわ!信じれん〜。」
「寒いで家から出れんでかんね。」
「今日はあいにくの雨だらぁ?」
「ほうだよ、寒いでかんわ。」
「天気良かったらお城ん中散歩したりしとる?」

祖母の家はお城の近所なのだ。

「なかなか出れんね。寒いで。」

俺は昔から小さくて痩せていた祖母を思い浮かべた。

「おばちゃん細いもんだ〜。余計寒いだよ。」
「それがアンタ、アタシ今日誕生日なんだわ。」
「……うん。覚えとるよ。おめでとう!」
「もう80だで。よく生きてこれたこと。」
「まだまだ生きるだら?“まだ”80歳って言わにゃかんわ。」
「それがアンタ、今日誕生日なんだわ」


こうして俺は何回も「おめでとう」を繰り返し、

「ほんだら、また帰ったらそこ寄るで。待っとって。」

と締めの言葉を言うと

「何かアタシ、同じ話ばっかりしとらんかったか?」

ぼそっと祖母が聞いてきた。

「しとらんよ。しとらん。楽しいわぁ、おばちゃん。久しぶりで。」
「ほうか、ほうか、実は今日、誕生日なんだわ。」

俺は再び祖母のぼそぼそに「うん、うん」と相槌をうちながら、
何度となく「しとらんよ、同じ話はしとらん、しとらんよ」と自分に言い聞かせた。


病気は以前より進行していたのだ。


十数回目の「しとらんよ」で、
俺は自分の涙に気付いて電話を切った。


何度も言ったけど。

おばちゃん、お誕生日おめでとう。
【2006.11.11 Saturday 18:36】 author : こつぶ夫人
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スキトキメキトキック。
今思えば、初恋だった気もする。



小学校の時に、やたら悪戯してくる男の子がいた。
俺は、何かと新しい遊びを考えるのが好きで、
放課後はクラスの子達とあれやこれや遊んでいたのだが、
彼はそんな時には遠くから見ていた。

   一緒に遊べば良いのに。

そう思っていたのだが、
遊ぶことがあまりに楽しくて、誘うことも思いつかなかった。
しかもガキ大将だった彼は、
いつも乱暴な仲間が一緒にいたのだ。
遊びをぶち壊されるのもイヤだった。


下校の時に、必ず俺を追いかけてきては
「なあ、なあ、こつぶ〜。」
と呼びかけ、俺が振り返るとキックを見舞って逃げていく。

   蹴りに来たのかよ。

これが結構続いて、いい加減腹が立っていた頃、俺の誕生日が来た。
俺の家は誕生日なんか祝う家ではなかったので、
二日違いの誕生日の友達の家で一緒に祝ってもらえることになった。

当日、家を出る前に「誕生日なんか、何だ!」
と、他所で誕生会をする俺は親父に拗ねられて、
誕生日のプレゼントを友人に買う小遣いをもらえなかった。

どうしようかと悩んで、しゃがみこんでいる玄関の前に小さな影が重なった。


顔を上げるとキックの彼が立っていた。



「い、いっしょに行こうと思って。」


彼も誕生会に呼ばれていたのだ。
手にはリンドウの鉢植えを持っていた。

嫌っていると思っていた彼が、なぜ俺の家に誘いに来たのか、
真意は未だにわからないが
キックは来たのだ。俺を誘いに。

「プレゼント、買えんかったで困っとる・・・。」

というと、キックは

「これ、お前にやる。」

と言ってリンドウの鉢植えを俺に渡した。

「お前がそれをあいつにやればいいんだがね。」
「あんたがあげるプレゼントなくなるじゃんか。」
「何とかするで大丈夫。」

そういって、道に生えていた花を摘みだした。

誕生会でキックは
「適当なプレゼントを持ってきたで、あいつはもう呼ばんとこう。」
と言われていた。
俺は、理由を説明できず、うつむいていただけだった。

翌日、キックは相変わらず下校の時にキックしてきた。
ただ、俺にはちょっとだけ優しいキックに思えた。

半年後、俺は隣の市に引っ越すことが決まって
お別れ会があり、みんなから手紙を受け取ったが、
同じクラスだったにもかかわらずキックは手紙を書かなかった。

   嫌われたかも。

そんな失望と不安が、俺を押しつぶしそうだった。


お別れ会の後、家に帰ると家の前でキックが待っていた。
リンドウの鉢植えを持って。

「た、誕生日の時はお前にやったけど、お前のモンにならんかったで。」

という。
俺はなんだか心臓を千本の針で刺されたようにドキドキした。

「か、か、母さんが持ってけって言ったで、ほんで。」

キックは後から言い訳のように早口で付け足した。

「あ、ありがと。」

鉢を受け取る時に、手が触れた。
ドラマのように、手が触れたのだ。今考えるとかなりベタだが。
そんな触り方は初めてだった。いつもキックでしか触れ合っていなかったから。
そしてしばらくお互いに何も言えずに立っていた。



キックとは、その日以来会っていなかった。
リンドウは庭に植え替えられて、元気に育った。何年も。
俺は新しい学校になじむのに必死で、
火星人だの、なんだのと忙しかったのだ。
忙しさにまぎれて、キックのことも少しずつ忘れていった。


俺がその後キックの名前を聞いたのは、中学生になって間もない頃だった。

TVで親父が好きな、
・・・なぜか好きだったマンガ、
「さすがの猿飛」を家族で見ていた時に電話が鳴った。
前の小学校の同級生だった。

久々に遊ぼう、という誘いの電話だったのだが、途中で彼女が、

「ああ、キック死んだん、聞いた?」

俺は呆然とした。
俺が越してしばらくしてから、
キックは用水路で溺れて亡くなったのだと言う。

知らなかった。
何も、知らなかったのだ。俺。

俺の中で、リンドウの花が震える手の温度と
下校の時のキックの感触が蘇った。

胸が痛かった。
友人が屈託無く話す近況もまったく聴こえなかった。



電話を置くと、TVがエンディングを迎えていた。
テーマソングの「スキときめきとキス」が流れ、親父がハミングしていた。

   恋の呪文は スキ ときめきと キス

俺にはときめきとキック。


リンドウと、キック。



今でも秋になってリンドウの花を見ると、
チクリと胸が痛む。
痛みを和らげるためにいつも俺は

   もっと話せたらよかったなあ。

と花に話しかけてみるのだ。
【2006.10.14 Saturday 18:39】 author : こつぶ夫人
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記事非公開。
今朝、夕べお通夜に行った知人の記事を書いた。


悩んだ末に昼間覗くと、記事が半分消えていた。
PCには触っていないのに。
不思議。


半分消えてしまった記事を、俺は非公開フォルダに移した。


ベランダに、彼女が好きだったガーベラを植えよう。
そうしよう。
陽だまりのガーベラ。
夕べ見た、涙のガーベラより、きっと素敵だ。



遅すぎる手向けの、花。
受け取れよ、陽だまりごと。
【2006.03.11 Saturday 20:43】 author : こつぶ夫人
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